海を見下ろすくつろぎの別荘「EYRIE」
ニュージーランド最大の都市、オークランドから約90キロ北に離れたところにある街、カイワカ。この小さな街は数多くの手つかずの自然が残され、ミネラルウォーターの採水地としても知られている。
カイワカの街には、タスマン海の水が流れ込む小さな入り江がある。そして、この入り江を臨むように広がる丘に、今回紹介する小さな2棟の別荘が建っている。
もしあなたが、海が見渡せる丘に別荘建てるとしたら……。やはり、誰にも邪魔されず海の青を楽しみたいと、建設地に丘の頂上を選ぶのではないだろうか?しかし、この建物の建築家と設計士の2人のプランは、「丘の中腹に建てる」というものだった。
どうして、丘の頂上ではなく、中腹に?建築家は、その地を歩き回り、傾斜がゆるやかで、地形のうねりもほとんどない丘の中腹に建設地を下げようと決心する。ここであれば、海からの強い風も防げ、丘の上から眺めるより美しい景色を隠れ家的に楽しむことができると考えたからだ。
実際に、別荘の中から窓の外に目を向けると、まるで自然の中にそのまますっぽりと暮らしているかのような感覚を覚える。海からの風で、別荘の周りの緑がそよぐ中に建っている様子は、まるで小さな船のようにも見える。
そしてこの建物、実はドアがないことにお気づきだろうか?その代わりに、壁一面に設置された大きな窓の前には石が置かれ、石に登って窓から出入りする仕組みだ。この大きな窓が、外の風景と建物をさまざまな場面でつなぎ、印象的な場面を作り出している。
室内はシンプルなレイアウトが特徴的だ。1階には、小さなキッチンがあり、その奥にはトイレが、2階部分には、階下を見渡せるこじんまりとした居心地のいい寝室がある。窓を通して室内には温かな自然の光が入り込み、やわらかい空間を演出している。
この建物を設計したNat Cheshireは、ニュージーランドの海岸の新しい姿を表現したいと、この建物を提案した。丘の頂上にそびえる白く大きな別荘ではなく、周りの自然と調和し、緑と共に佇む別荘。小さな空間に広がる贅沢は、新しいくつろぎの形と言えるかもしれない。